取材中に著者が脱線しても感じよく軌道修正
私の考えるプロのブックライターに必要なスキルは以下になります。
1.文章力
2.聞く力
3.読者目線
4.構成力
5.タイムマネジメント力
6.粘り強さ
7.発想力
8.情報収集力
9.胆力
10.真面目さ
前回は「4.構成力」について説明しました。
https://iehikaku.com/archives/905
今回は「5.タイムマネジメント力」について書きます。
「5.タイムマネジメント力」
ブックライターの「タイムマネジメント力」と聞くと、
多くの人は「締め切りを守る」ことをイメージするでしょう。
確かに締め切りを守ることは、
ブックライターにとって一丁目一番地、イロハのイ。
絶対に軽視してはいけないことです。
とはいえ、締め切りを守れないなんて論外。
ここで書くまでもないことです。
では、私の考えるブックライターにとってもっとも重要なタイムマネジメント力とはなにかというと、
それは
「取材を仕切る力」
です。
著者になることが多い経営者のほとんどは、
一般の人が想像する以上に多忙です。
とにかくいつも時間を気にしている。
そのような中で平均2時間×5~6回の取材時間をいただきます。
8章×5項目=40項目の質問があるとすれば、
全6回ならば1回・2時間で約7項目分の取材をしなければならないということです。
1項目当たり約17分。
また、全6回ということは1回当たり1万文字以上の情報を収集しなければなりません。
2時間で1万文字ということは、1時間で5000文字です。
取材をした経験がある方ならばご理解いただけると思いますが、
これはよほど取材に慣れているか、事前準備をしっかりしている相手でなければ、
聞き出せない情報量です。
そのために多くのケースでは、
一読してすぐ理解してもらえる質問事項を用意し、数日前に渡しておきます。
そして取材当日は、その質問事項に沿って手際よく取材を進めます。
この流れで進められれば予定どおり5~6回の取材で終了できます。
しかし現実は甘くない。
事前に質問事項を送っていても、
当日までに確認している著者は、あくまで感覚値ですが6割程度です。
つまり半分近くの著者は取材開始の時点で丸腰……。
これが分かった時点で脳みそはフル回転。
あの手この手の質問を繰り返し、時間内に十分な情報量をかき集めます。
このとき著者には気持ちよく話してもらえないと、
より深い内容を引き出せません。
「こいつ事務的だな」
と思われては事務的な回答しか得られないでしょう。
ですから、頭の中では、
「あと30分でこことここを聞かなければ」
「う~ん。その回答だと内容が薄い。もっと的を射た質問をしなければ」
などと考えつつも笑顔で場の雰囲気を盛り上げます。
ところがこの雰囲気づくりが、あだとなることが多々あります。
著者の話が脱線してしまうのです。
「よくそんなすごいこと思いつきましたね!」
と大袈裟に目を丸くなんてしていると、
「いや実はね、これは旨い日本酒を飲んでいるときに思いついたんだよ。その酒がねーー」
と新規事業の話がいつの間にか幻の酒の話題になり、
気がつくと10分経過……。
私は新卒時代に飛び込み営業を叩きこまれたので、
比較的人に気持ちよく話してもらうのが得意だと思います。
これは取材においても著者の普段は見せない人柄を引き出すという意味では有効なのですが、
そればかりだと本になりません。
ですから、
「脱線しているな」
と感じたらすぐに気づかれないように時間を確認し、
「それで先ほどの話の続きなのですがーー」
というように軌道修正します。
この本題と雑談の絶妙なバランスを取れるのが、
プロのブックライターだと思います。
(とはいえ、雑談は全体の1割以内に留めるようにしています)
なお、
「締め切りを守れないなんて論外」
と書きましたが、
同じ締め切りを守るとしても、
ブックライターのタイムマネジメント力によって原稿の出来は大きく異なると思います。
通常、私は執筆期間として取材と並行する期間も含めて2カ月ほどいただきます。
1日に5000文字書ければ8万文字でも16日間で書き終えます。
したがって、2カ月もあれば余裕のはず。
ところがそうでもないのです。
毎週のようにネット記事などの締め切りがありますし、
ブックライティングの案件が重なっていることも普通にあります。
1つのブックライティングだけに集中して、
2カ月ごとに脱稿できれば楽でしょうが、
そんなに虫がよくご依頼いただけません。
そこで重要になってくるのがタイムマネジメント力です。
前半で
「まだまだ時間に余裕がある」
と計画性なく書いていたら、
後半の推敲時間が足りなくなって原稿の完成度が下がってしまいます。
また、余裕がある中で、早め早めに書くことで、
突然入ってくる仕事にも柔軟に対応できます。
ですから、私は最初から本の全体像を把握したうえで
「1日○○文字以上書く」
と決め、十分に余裕を持ったスケジュールで書くようにしています。
まとめると私の考えるプロのブックライターのタイムマネジメント力とは以下になります。
・取材予定の2時間で聞きたい内容は全部聞ける
・それでも事務的には質問しない
・取材中に著者が脱線しても感じよく軌道修正できる
・時間に余裕を持って原稿を書き、十分に推敲できる
次回はプロのブックライターに必要な「粘り強さ」について解説します↓
https://iehikaku.com/archives/967
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