私がブックライターになったきっかけと50冊以上書けた理由

ブックライター

最初は1冊の本を5人で書くライターのひとりとして

私がブックライターになったのは2008年でした。
当時お世話になっていた東京ライターズバンクのサイトで、「有名経営者の書籍執筆」というある出版社からの募集を見つけて応募したのがきっかけです。

この企画は1冊の本を5人のライターで書くというものでした。
そのひとりに選ばれたというわけです。
報酬は10万円前後だったと記憶しています。

以来、おかげ様でコンスタントにブックライティングのお仕事をいただき、現在(2024年)までに50冊以上の書籍制作に携わることができました。

そこで、なぜこれほど多くの本を書くことができたのか、を考えてみました。
私がブックライティングをはじめた2008年時点では、著者に代わって本を書く人を「ゴーストライター」と呼ぶのが一般的でした。

当時の私のゴーストライターのイメージは次のようなものでした。
「有名人を作者とする作品を、本人に代わって創作しているけっして表に出ない人」

つまり、世間を欺く職業の人。
それがゴーストライターのイメージだったのです。

確かにそういった事実が2010年代に入って音楽業界から発覚したこともあり、
ゴーストライターという言葉に対してマイナスなイメージを持つ人は多いでしょう。

しかし、私が続けてきた仕事は、そんな後ろめたいものではなく、むしろ世間に対して胸を張れるものです。

その理由を知るには、私がおもに携わっている実用書・ビジネス書の作り方を理解する必要があります。
こういった本は大体6~10万文字で書かれています。
私が連載させていただいているHOME’S PRESS↓の1記事が2000~3000文字ですから、1冊の本はネット記事30本分に相当します。
https://www.homes.co.jp/cont/press/author/shiinaz/

これほどの文字数を1~2カ月で書ける一般人は、ほとんどいないでしょう。
まして実用書・ビジネス書の著者の多くは敏腕経営者で、それこそ寝る時間もないほど多忙なので本を書く時間なんてありません。
ですから、著書を出すなら原稿を書く人間が必要になるわけです。

本の内容となるコンテンツを持っているのは著者。
それを聞いて文章化するのがゴーストライター。
これが実際の役割分担です。

しかしながら、上記のようにゴーストライターという言葉はイメージが良くない。
そこで最近は「ブックライター」と呼ばれることが多くなったようです。

ただし、単純に文章化するだけではプロのブックライターとはいえないでしょう。
聞いた話を書き起こす(テープ起こし)だけでは、誰が読んでも理解できる原稿にはならないからです。

本の中身を持っているのはあくまで著者です。
しかし、「その中身を全部話してください」とお願いしても、よほど取材に慣れた著者でない限り1から10まで話せませんし、仮に話せたとしても順番がばらばらでそのまま書いても分かりづらくなります。

『永遠の0』や『海賊と呼ばれた男』などで知られる百田尚樹氏の作品『夢を売る男』で、主人公は良い文章の基準についてこう語っています。

「読みやすくて分かりやすい文章だ。それ以上でも以下でもない」

ですからプロのブックライターは、考え抜かれた質問によって著者からコンテンツを最大限に引き出し、読みやすくて分かりやすい言葉に変換して文章化します。

そのときに勝手にストーリーやデータを創作することはありません。
ですから世間を欺くことはなく、堂々と胸を張ることができるのです。

ただし、著者の意見を裏付けるために、客観的事実やデータを探して書くことはあります。
それでも、最終的には著者がすべて読んでOKを出すので、「勝手なことを書かれた」ということは絶対にありません。

また、本を書く前には「本の設計図=目次案」をつくる必要があります。
仮に全8章で、それぞれ5つの項目で構成される本ならば合計で40項目となります。
実用書・ビジネス書の目次案を、素人である著者が作成するのは難しいでしょう。
ですから、ほとんどが編集者またはブックライターが著者からのヒアリングによって作成します。

繰り返しますが目次案は本の設計図です。
ここで必要なコンテンツをすべて洗い出し、読者が理解しやすいように並べます。
この二つの作業が本の出来不出来を決定づけると言ってもいいでしょう。

プロのブックライターは分かりやすい文章を書けるだけでなく、伝える順番を整えた目次案も作成できます。
また、作成しないケースでも取材前に目次案の全体像を把握し、「内容が薄い」「
本の趣旨とズレている」といったことがない取材を行います。

設計図に沿って発注者の希望にぴったりの作品をつくる。
そう聞くと大工さんを思い出す人もいるかもしれません。
ブックライターはまさに大工さんと同じ「職人」だと思います。
小説家のような五感を刺激する文章力は、あまり必要とされません。
それよりも「どう書いたら読者に伝わるか」を追求し、執筆中に「ここは読者がつまずきそうだ」「ここは次章と矛盾している」といった場所が見つかれば、発注者である著者や編集者と相談のうえで目次案とは異なる原稿を書くこともあります。
その結果、著者が伝えたいことを過不足なく盛り込んだ分かりやすい原稿が完成するのです。

まとめると私の考えるプロのブックライターの条件とは以下になります。

1.著者が読者に伝えたいことを網羅した目次案の全体像を把握したうえで、
数万文字の原稿を比較的短期間で書く(締め切りを守る)ことができる人。
2.考え抜かれた質問によって著者からコンテンツを最大限に引き出し、
分かりやすい言葉に変換して文章化できる人。

この条件をクリアし、胸を張ってこれたから私は16年間ブックライターを続けてこれたのでしょう。

なお、ご依頼のほとんどがリピートです。その理由をある編集者の方にお聞きしたところ、こういうご回答をいただきました。
「そもそも新規のライターに依頼すると、3割は1回目の取材後に『私には書けません』というメールを送信してきて音信不通になります」
「無事にすべての取材を終えたとしても、9割が締め切りを守ってくれません」

音信不通。締め切りを守らない。
両方とも私の頭によぎったことさえなかったので、目が点になってしまいました。

次回以降は、上記条件を実現するブックライターに必要な10のスキルについて解説します↓
https://iehikaku.com/archives/881

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